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ペリステュリウム型ドムス

   ペリステュリウム型ドムス

ペリステュリウム型ドムス(家、Domus)の、各部の名称、解説、復元画像。
復元画像は河島が作成したもの。ポンペイの家をもとにしている。

 エトルリアを起源とするアトリウム型ドムスの後方に、列柱廊に囲まれた中庭(ペリステュリウム、peristylium)を伴った家が紀元前2世紀くらいから作られるようになった。このページではそのペリステュリウム型ドムスを紹介します。

 アトリウム型ドムスと同様に、ペリステュリウム型の邸宅(ドムス:Domus)も、古代ローマの中上流の富裕層一家族が利用していました。基本的な設計はアトリウム型ドムスの後方に中庭と部屋を追加したもので、アトリウム型よりも大きな造りになっています。アトリウム部分とペリステュリウム部分は上部の屋根が開いており、建物の中に光や新鮮な空気を取り入れるために用いられていました。モデルとしたこの家は二階建てで、家僕(奴隷)のための部屋なども多数用意されていました。
 アトリウム型と同様に家の外側に開く窓はあまり作られず、町の喧騒や危険を遮断していました。部屋の壁には美しい絵が描かれ、床にもモザイク画などが施されていました。後方の中庭(ペリステュリウム)は列柱廊で囲まれ、見事に手入れされていて、彫刻や噴水などが置かれていました。

アトリウム型ドムス アトリウム型ドムス


間取り・解説

ペリステュリウム型ドムスの間取りです。

model peristylium a
クリックすると(もしくは右クリックで)大きな画像を見ることができます。Copyrighted by Shiro Kawashima.


番号 名称 ラテン語 解説
(1) 玄関 fauces
ファウケース
faucesとは「喉」という意味。アトリウムへと続く細い玄関。扉を入ったところ、入り口部分の空間は「玄関ホール」(ウェスティブルム、vestibulum)とも呼ばれる。
(2) 寝室 cubiculum
クビクルム
アトリウムの周りには小部屋が連なり、家族の寝室(cubiculum)として使われた。複数形はクビクラ(cubicula)。一般的には、寝室にはベットしか家具はなかった。玄関両脇の大きな部屋は、アトリウム型ドムスで紹介したような貸店舗(タベルナ、taberna)として使われることもある。その場合は、部屋はアトリウム側ではなく、道路側に向かって開かれる。
(3) 翼室 alae
アラエ
アトリウムの両側にあり、開かれたスペースで、様々な目的のために使われる。ときに祖先の神聖なマスクや彫像などが収められていた。単数形はアラ(ala)で、「翼」の意味。この家の場合、二階へとつながる階段が置かれている。
(4) アトリウム atrium
アトリウム
大きな広間。建物の中に光や新鮮な空気を取り入れるとともに、雨を溜めるためにアトリウムの上部の屋根は開けられていた。雨水は「屋根の開口部」(compluvium)から「雨溜め」(impluvium)へと落ちて、そこに溜められた。アトリウム型ドムスの中心に位置する。
(5) 食堂 triclinium
トゥリクリーニウム
寝そべって食事をとるための食堂で、トゥリクリーニウムと呼ばれる。トゥリクリーニウム(triclinium)という名前は、ギリシア語の「三」(トゥリ、tri-)と「寝椅子」(クリーネー、kline)に由来する。低いテーブルを中心に三辺に寝椅子(レクトゥス、lectus)が置かれていた。横になりながら飲食し、歓談するのが饗宴のスタイルだった。
(6) 執務室・事務所 tablinum
タブリーヌム
アトリウムに向かって大きく開き、玄関に対面する部屋はタブリーヌム(tablinum)と呼ばれる。タブリーヌム(tablinum)は、書類・記録を意味する「タブラ」(tabula)から作られた言葉で、この部屋は執務室・事務所として用いられた。家の主人が事務的な作業を行なったり、取引相手や庇護民(クリエンテス)との面会などを行なうのに用いた。
(7) 通路 andron
アンドゥロン
アトリウムから庭園へと抜ける通路。
(8) 物置 . 翼室から続く物置。様々な用途に使われる。たとえば、図書館(librarium)などがあった。
(9) 小部屋(寝室) cubiculum
クビクルム
アトリウムの周りにあるよりも少し大きめの小部屋。ペリステュリウムに面している。寝室(cubiculum)として使われるほか、裕福な家の場合には、まれに風呂(latrina)もあった。
(10) 裏口 posticum
ポスティクム
家僕や小商人などが出入りするための裏口。
(11) 中庭 peristylium
ペリステュリウム
列柱廊に囲まれた中庭で、屋根は開放されていた。草花や低木、噴水、ベンチ、彫刻、生け簀などがあった。調理のためのハーブなども植わっており、家族の憩いの場となっていた。また、家の神々であるラレースを祀る祭壇(ララーリウム、Lararium)が置かれていた。この祭壇は、ペリステュリウムまたはアトリウムにあった。
(12) 台所 culina
クリーナ
家の奥まった所にあり、調理をするための台所。一般的にトイレ(latrina)は台所にあり、他のゴミなどとともに下水に排出された。
(13) エクセドラ exedra
エクセドラ
ペリステュリウムに開放されている空間で、大人数の客人との饗宴を行なうために使われた。壁にはペリステュリウムと調和するような絵が描かれていた。
(14) 夏用の食堂 triclinium
トゥリクリーニウム
アトリウムの周りにあった食堂(5)と同様に、寝そべって食事をとるための場所。ペリステュリウム側に開放されていて涼しく、夏の強い日差しを避けて食事をすることができた。

復元画像

上から見たところ
model peristylium b
斜めから見たところ
 atrium c
クリックすると(もしくは右クリックで)大きな画像を見ることができます。Copyrighted by Shiro Kawashima.
 
入口の様子
model peristylium d
ペリステュリウム部分
model peristylium d
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ペリステュリウム部分(内部)
model peristylium h
アトリウム部分(入口から)
model peristylium f
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アトリウム部分(執務室側から)
model peristylium g
クリックすると(もしくは右クリックで)大きな画像を見ることができます。Copyrighted by Shiro Kawashima.
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