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古代ローマの暦

 古代ローマの暦

このページでは、古代ローマで用いられていた年・月・週・日の呼び名などを説明しています。


暦の歴史

ローマの暦の歴史を簡単に解説します。ただし、ユリウス暦以前の暦に関しては確定的な証拠がないために、伝承や研究者によって推測された部分も多い。

ロムルス暦
紀元前8世紀(前753年?)ころ、伝説的なローマの建国者ロムルスの名にちなんでつけられた最初の暦が誕生する。ギリシアの太陰暦を原型とした暦であったらしい。

農耕のための暦であったために、3月から12月までの10ヶ月(304日間)に名前が付けられていた。農作業を行なうことができない期間(今日の1月と2月)には呼び名がなかった。
3、5、7、10月は大の月と呼ばれ31日間、残りの月は小の月と呼ばれ30日であったという。

今日の月 名称 日数
3月 Martius 31日
4月 Aprilis 30日
5月 Maius 31日
6月 Junius 30日
7月 Quintilis 31日
8月 Sextilis 30日
9月 September 30日
10月 October 31日
11月 November 30日
12月 December 30日
1月
2月
―― 約60日

ヌマ暦
前710年ころ(?)、続く第2代目の王ヌマ・ポンピリウス(Numa Pompilius、前715-673)が冬の期間に2ヶ月を加えて、一年を12ヶ月と定めたという(Livius, 1.19)。その暦がどのようなものであったかは不確かである。しかし、前6世紀ころにはこのヌマ暦を元にした12ヶ月、355日間の暦が完成していた。

太陽を基準にする一年には11日足りない。その分は二年に1度、2月を23日に縮めて、27日間または28日間の閏月が加えられていた。この閏月はインテルカラーリス(Intercalaris mensis)もしくはメルケードーニウス(Mercedonius)と呼ばれる。
今日の閏日が2月に付け加えられるのは、このヌマ暦に由来する。

今日の月 名称 日数
3月 Martius 31日
4月 Aprilis 29日
5月 Maius 31日
6月 Junius 29日
7月 Quintilis 31日
8月 Sextilis 29日
9月 September 29日
10月 October 31日
11月 November 29日
12月 December 29日
1月 Januarius 29日
2月 Februarius 28日
(23)
閏月 Mercedonius
Intercalaris
27、28日

前153年の改定
前153年に今日の1月にあたるヤーヌアーリウス(Ianuarius)が行政に関する年度はじめとなり、新たなコンスル(執政官)の就任が1月1日と定められた。そのために、この年から一年の始まりが1月1日となった。
この改定によって、今日の9月から12月を指す月の名前と言葉の意味のずれが生じた。

【参考】
 永田久『暦と占いの科学』では、Ianuariusを年の初めとした理由に、「行動の始まり」を司るヤーヌス神にちなむ1月が、年の初めに相応しかったのだろうと推測している。しかしこの改定は、もっと具体的な必要性に迫られたものであったようだ。
 前155年イベリア半島西方のルシタニア人が蜂起し、ルシタニア戦争が生じる。さらに翌年イベリア半島中部のケルト=イベリア人が蜂起し、ヌマンティア戦争(第二次ケルティベリア戦争)が起こった。
 前153年以前にはMartius(3月)に年が始まり、Idibus Martiis(3月15日)に新しい執政官(コンスル)が就任した。そして、この執政官の就任と同時に、その年の戦争や遠征も開始する。通例では冬は軍事行動を行なわない(行なえない)期間であったが、この非常事態には早期に出兵する必要があった。そこで、年始を1月として新たな執政官の就任を行ない、ケルト=イベリア人に対して出兵したようだ。このとき遠征した執政官はクイーントゥス・フルウィウス・ノービリオル(Q. Fulvius Nobilior)であったが、彼はこの戦いで戦死した。

ユリウス暦
共和政末期には暦と実際の季節とのあいだに大幅な誤差が生じていた。そのために、前46年にカエサルはそれ以前の暦を廃止して、前45年1月1日から新しい暦を始めた。この暦はユリウス暦と呼ばれるものであり、エジプトの太陽暦を元にして、一年を365日とした。

また3年に一度、2月24日を2度繰り返し閏日(dies intercalaris)とする閏年(annus bissextilis)を定めた(今日のような2月29日はなかった)。初期のユリウス暦では3年に一度閏年が入れられていたが、その後その誤差が改められ、後8年に4年に一度に定められた。

また、前44年にカエサルの名にちなんで7番目の月がユーリウス(Iulius)に、後8年にアウグストゥスの名にちなんで8番目の月がアウグストゥスと改名さた。暦の詳細な表は後述。
今日の暦は、このユリウス暦を原型としている。

【参考】
・地球は太陽の周りを365.25日かけて一周する
そのために、1年は365日で4年に一度閏日を入れる

・月は29.5日かけて満ち欠けをする
その場合12ヶ月は354日


 

年の呼び方には2種類あった。

(1)毎年選出される2人のコンスル(執政官)の名前を挙げる方法。
例: Cn. Pompeio et M. Crasso consulibus
   「グナエウス・ポンペイウスとマールクス・クラッススがコンスルの年(紀元前70年)」
文法的には、絶対的奪格であらわされている。

(2)ローマ建国の年(前753年)を元年とする方法。
例: sescentesimus octogesimus quartus annus ab urbe condita
   「都市建設から684年目(前70年)」
「ab urbe condita」は「都市(ローマ)建設から」を表すものであり、AVCもしくはa.u.c.と略される。
紀元前753年が、1a.u.c.なので、753a.u.c.が紀元前1年。


月の名前は形容詞で記述される。これは「月」を表す名詞 mensis (m.) が省略されているためである。


名称(ラテン語) 名称(日本語) 略号 日数
ヌマ暦
日数
ユリウス暦
意味
3月 Martius, -a, -um マールティウス Mart. 31日 31日 ローマの起源の神である軍神、マールス(Mars)にちなむ。
4月 Aprilis, -is, -e アプリーリス Apr. 29日 30日 「花開く(aperio)」という言葉にちなむ。
5月 Maius, -a, -um マイウス Mai. 31日 31日 豊穣の女神、マイア(Maia)にちなむ。
6月 Iunius, -a, -um ユーニウス Iun. 29日 30日 ローマ最高の女神で、女性と結婚の保護者、ユーノー(Iuno)にちなむ。
7月 Quintilis, -is,-e
(Iulius, -a, -um)
クイーンティーリス
(ユーリウス)
Quint.
Iul.
31日 31日 Quintilis は「5番目の月」の意。
前44年以降は Iulius に名称が改められた。これはユーリウス・カエサル(Iulius Caesar)にちなむ。
8月 Sextilis, -is, -e
(Augustus, -a, -um)
セクスティーリス
(アウグストゥス)
Sext.
Aug.
29日 31日 Sextilis は「6番目の月」の意。
後8年以降は Augustus に名称が改められた。これはオクターウィアーヌスに与えられた称号アウグストゥスにちなむ。
9月 September, -bris, -e セプテンベル Sept. 29日 30日 「7番目の月」の意。
10月 October, -bris, -e オクトーベル Oct. 31日 31日 「8番目の月」の意。
11月 November, -bris, -e ノウェンベル Nov. 29日 30日 「9番目の月」の意。
12月 December, -bris, -e デケンベル Dec. 29日 31日 「10番目の月」の意。
1月 Ianuaris, -a, -um ヤーヌアーリウス Ian. 29日 31日 ローマの古い神で、特に「門」と「始まり」の守護者、ヤーヌス(Ianus)にちなむ。
2月 Februarius, -a, -um フェブルアーリウス Febr. 28日
(閏月)
28日
(29日)
年の終りの清めの儀式、フェブルア(februa)にちなむ。
閏年には2月24日を2度繰り返すことで一日増やし、日数が29日となる。

※前153年以降、一年の始まりは1月からであるが、歴史的な背景を踏まえて便宜的に3月から始めた。
※名称はユリウス暦以前からほとんど変わっていない。
※前46年以前に用いられていたヌマ暦は計355日であり、2月の終わりに閏日(閏月)を加えた。ユリウス暦でも2月に閏日を加えた。詳細は上述の「暦の歴史」を参照。
※7月から12月の序数詞は3月から始まる月の数え方に由来している。
※Iulius や Ianuaris の冒頭の「I」は「J」と同じであるので、Julius、Januaris とも表記する。


八曜制
古代ローマでは1週8日間の八曜制(ヌンディヌム、nundinum)を用いていた。nundinumはnuvem dies「9日間」を意味し、9日目に再び元の曜日に戻ることを表している。
1月1日(Kalendis Ianuariis)をAとして、AからHまでの記号であらわした。

AからHまでの記号の1日を毎年「市の日(ヌンディナエ、nundinae)」とした。農民は「市の日」に農作業をやめて買い物に出かけた。ある種の休日の意味合いがあったようだ。

「市の日」は毎年異なる。Aの日が「市の日」である場合、ユリウス暦の最後のAの日は361日目、12月27日(a.d. VI Kal. Ian.)。12月31日はEで、次の「市の日」までは3日。しかし、1月1日は再びAの日になるので、翌年の「市の日」はCとなる。


七曜制
1週間を7日とするのは、紀元後2世紀からであり、曜日の名称はさらにあとのことである。

日曜日 Solis Dies 太陽の日
月曜日 Lunae dies 月の日
火曜日 Martis dies マールス(火星)の日
水曜日 Mercurii dies メルクリウス(水星)の日
木曜日 Iovis dies ユピテル(木星)の日
金曜日 Veneris dies ウェヌス(金星)の日
土曜日 Saturni dies サートゥルヌス(土星)の日

ローマの日の呼び方は定められた基準日から逆算して計算する。
基準日は「カレンダエ」、「イードゥース」、「ノーナエ」の3日。元来、カレンダエ、ノーナエ、イードゥースはそれぞれ新月、最初の月の弦、満月を表していた。

その基準日を用いて、すなわち「カレンダエの3日前」「イードゥースの4日前」等の言い方で日を表す。
そのとき注意すべきは、「その基準日を含めて~番目の日(~日前)」と表すことである。すなわち、「基準日の前日、3日前、4日前、5日前・・・」と数える。「2日前」ではなく、「前日」と言う。

「~日前の日」という言い方は、ante diem (略 a.d.)「アンテ・ディエム」に序数詞をつけることで表す。


カレンダエ Kalendae, -arum その月の第1日目 朔日、第1日目。
イードゥース Idus, -uum その月の真ん中の日 月の日数は毎月変わるので、真ん中の日も変わってしまう。
3月、5月、7月、10月は15日、他の月は13日、と定められている。
ノーナエ Nonae, -arum Idusから9番目の日
(9日前の日)
イードゥースを含めて9番目に遡った日。
3月、5月、7月、10月は7日、他の月は5日、と定められている。
~日前 ante diem 略号 a.d.
アンテ・ディエム
例:3月2日
ante diem sextum Nonas Martias (a.d. VI. Non. Mar.)
「マールスの月のノーナエの日から遡って6番目の日」
前日 pridie 略号 prid.
プリーディエー
前日のみは、pridieを用いる。
例:1月31日
pridie Kalendas Februarias (prid. Kal. Febr.)
「2月1日の前日」

【参考】
例: 3月11日=「マールス(Mars)の月のイードゥースの日(Idus)から遡って5番目の日」
本来ならば、die quinto ante Idus Martias と表すのが文法的には正しいが、通例 ante diem quintum Idus Martias と表す。

※日にちの表記は、ひとつのまとまりとして捉えられるので、その形のままで、格変化することなく、前置詞と結びつく。
例: ex a.d. III Non. Iun. usque ad prid. Kal. Sept.
「6月3日から8月31日まで」


ノーナエとイードゥースの日を列挙すると以下のようになる。

名称 Nonae Idus 日数
ヌマ暦
日数
ユリウス暦
3月 マールティウス
Martius
7日 15日 31日 31日
4月 アプリーリス
Aprilis
5日 13日 29日 30日
5月 マイウス
Maius
7日 15日 31日 31日
6月 ユーニウス
Iunius
5日 13日 29日 30日
7月 クイーンティーリス
Quintilis
(ユーリウス)
(Iulius)
7日 15日 31日 31日
8月 セクスティーリス
Sextilis
(アウグストゥス)
(Augustus)
5日 13日 29日 31日
9月 セプテンベル
September
5日 13日 29日 30日
10月 オクトーベル
October
7日 15日 31日 31日
11月 ノウェンベル
November
5日 13日 29日 30日
12月 デケンベル
December
5日 13日 29日 31日
1月 ヤーヌアーリウス
Ianuaris
5日 13日 29日 31日
2月 フェブルアーリウス
Februarius
5日 13日 28日
(閏日)
28日
(29日)
 

※イードゥースの日の決定については、太陰暦を用いていたロムルス暦・ヌマ暦と関連する。ヌマ暦では3月、5月、7月、10月が31日間を有する大の月、それ以外が小の月とされていた。大の月のイードゥースが15日、小の月のイードゥースが13日と定められている。


ユリウス暦のカレンダー ユリウス暦のカレンダー
さらに詳細な日にちの呼び方は、別のページにまとめましたので参考にしてください。


参考文献

・Adkins, Lesley and Roy A. Adkins. Handbook to Life in Ancient Rome. Oxford: Oxford U.P. 1994
・Hans Rubenbauer, J. B. Hofmann. Lateinische Grammatik. Neubearbeitet von R. Heine. Munchen: R. Oldenbourg Verlag, 199512. 本城大一氏の私訳を利用させていただいた。
Oxford Classical Dictionary. Oxford: Oxford University Press. 1996
・オウィディウス、高橋宏幸(訳)、『祭暦』、国文社、1994
・永田久、『暦と占いの科学』、新潮選書、1982
・中山恒夫、『標準ラテン文法』、白水社、1987
・長谷川岳男、樋脇博敏、『古代ローマを知る辞典』、東京堂、2004
・リーウィウス、鈴木一州(訳)、『ローマ建国史』(上)、岩波書店、2007

HP: Encyclopaedia Romana にも詳しい解説が掲載されている


関連事項

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このページの最終更新日: 2007/12/21
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