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アパラトゥスの略号

    アパラトゥスの略号

古典文献のギリシア語やラテン語の原典を読む際に役立つアパラトゥスの略号、解説等を簡単に説明しています。


アパラトゥスとは

 古典作品には著者自身が書き記した原書というものは存在しません。今日私たちが読んでいるものは、繰り返し繰り返し書き写された「写本」です。しかも、現存する主要写本はほとんど中世以降のものです。それほど長い間、人の手によって写されたものですから、当然写し間違いや誤字脱字はそこらじゅうにあり、写本ごとに書かれているものが少しづつ違っています。

 そのような諸写本の情報から、正しい原典を再現しよう試みる研究を特に「原典考証」と言います。原典考証は、「本文批判」、「テクスト批判」、とも呼ばれます。英語ではtextual criticism、ドイツ語ではTextkritik、フランス語ではcritique textuelleと言います。その原典考証のなかで出た写本間の異なる読みを「異読」と言います。ただし、明らかな誤字脱字等の考察に値しない読みは異読とは呼びません。

 原典考証の研究成果や主要な異読を書き記した欄外の註をapparatus criticus(アッパラートゥス・クリティクス)、一般に「アパラトゥス」と呼びます。私たちがギリシア語やラテン語の原典を読むときには、欄外に(多くはページの下に)アパラトゥスが記されています。ちなみに、中世の写本の欄外に残された古代からの注釈は「欄外古註」(スコリア、scholia)と言います。

 アパラトゥスの記述には、ラテン語の略号が多用され、初めて見るときには困惑してしまいます。しかも略号の意味は記されていないことがほとんどです。以下ではアパラトゥスで使われる主要な略号や記号等、および簡単な解説を列挙します。

※ギリシア語やラテン語の原典を載せている本であっても、必ずしもアパラトゥスがあるとは限りません。Oxford Classical TextsやTeubner等の校訂本には詳細なアパラトゥスが記載されていますが、Loebのシリーズなどでは異読が時々記される程度です。

Oxford Classical Textsの例(クリックで画像表示)


略号表    

・アルファベット順。記号は最初に記載した。

・アパラトゥスに記される諸写本の略号や、諸写本の系統については、必ず書籍の序文に解説されていますので、確認してください。

・略号や記号については、校訂本、パピルスのテキスト、碑文等ではそれぞれ意味が異なりますので注意してください。以下では主に一般的な校訂本に用いられるものを主としています。

・以下のものは網羅的ではなく、思いついた順に記載しています。また、間違いがあるかもしれません。その場合にはお知らせください。

・一般にラテン語作品の場合は、本文の引用とアパラトゥスのラテン語を区別するために、アパラトゥスのほうだけを斜体字にする。ギリシア語作品の場合は、区別が容易なので斜体字にはしません。


略号等の表記

単語(ラテン語)

日本語

解説

[...]   削除記号 本文中に用いられる記号(アパラトゥス中の記号ではない)。[...]で囲まれた単語や文章を、校訂者が削除すべきであると判断している。
※パピルスのテキストや碑文では[...]で囲まれた単語や文章、または空白部分は損傷していて読めないことを表す。もしも行の前半が損傷している場合は、...]と記し、後半が損傷している場合は[...と記す。
〈...〉   挿入記号 本文中に用いられる記号(アパラトゥス中の記号ではない)。〈...〉で囲まれた単語や文章を、校訂者は挿入すべきであると判断している。
 † obelus オベルス、ダガー、剣 本文中に用いられる記号(アパラトゥス中の記号ではない)。日本語では「オベルス」のほかに「ダガー」や「剣」と呼ばれる。オベルスが付けられた単語や文章の原形が誤写や改変などによって明らかに損なわれ崩れていること(corruption)を表し、さらに校訂者がそれをどう校訂してよいかわからない場合に用いる。対象が一単語の場合はオベルスをひとつ用い、対象が複数の単語や文章の場合はふたつのオベルスで囲むのが一般的。
A B C...    A写本、B写本...  写本の略号を表す。大文字のアルファベットで書かれたこの記号が、一般的に最も主要な写本を表す。また、Aと書くことで「すべての主要写本」を表す場合もある。諸写本の分類に用いられる略号は校訂本ごとに異なり、その本の最初の部分に必ず略号表(sigla、conspectus siglorum、etc.)等がついている。
《例》 716 quod A:「716行(のquid)は、A写本ではquodになっている」
a b c...   a写本、b写本... 上記の略号と同じように写本の略号を表す。一般的に大文字のアルファベットに比べると重要度の低いものに用いる。上述のように、校訂本ごとに確認する。
αβγ...   α写本、β写本... 上記の略号と同じように写本の略号を表す。ギリシア語の小文字で表わされる写本は、一般的に複数写本から再構成された写本、すなわち原本と主要写本の中間に想定される写本(亜写本)を指す。また、ωは特に原本を指すことがあり、その場合「すべての写本」と同等の意味を持つ。上述のように、校訂本ごとに確認する。
a.c.
a.corr.
ante correctionem 校訂される以前は ある写本が修正された記録を持つ時に使う。
《例》et] at A a.c.:「A写本を含むすべての写本がetと記しているが、A写本は修正されており、その修正以前にはatを記載していた」
ad ad ~に 他のコメンタリー等のある個所を指示するときに、「~に、~の所に」を表す前置詞。
《例》Anderson ad Ov. Met.10.1:「アンダーソンのオウィディウス『変身物語』第10巻1行に載っている(ので参照してください)」
ad l. ad locum その場所に 参照すべき個所や該当する個所を指し示す。
add. addidit 加えた ある校訂者が写本には無い言葉を書き加えたことを示す。校訂者自身が挿入した場合はaddidiと記すことがある。
《例》quod add. Kawashima:「河島がquodを挿入した」
addub. addubitavit 疑っている
ためらっている
ある校訂者が指示する単語や文章、もしくは他の校訂に、疑問をはさみ、真正さを疑っている。
adscr. adscripsit 書き加えた ある校訂者が写本にはない言葉を挿入したことを示す。校訂者自身が書き加えた場合は、adscripsiと記すことがある。
《例》quod adscr. Kawashima:「河島がquodを書き加えた」
al.
aliter
aliter さもなければ ひとつの校訂に対して「さもなければ」とつなげる。
alii alii 他は 一人の校訂者や写本に対して「他の校訂者たちは、他の諸写本は」を表す。
alii alia alii alia 別の人は別のものを 他の校訂者たちは、別のこと(単語等)を提案している。いくつかの校訂の可能性と提案がある場合に用いる。
alt.
alterum
alterum もう一方の
後者の
2つ同じ単語等がある場合、「もう一方の方、後者」を指示する。例えば2つetがあるような場合に、後者を指す。
《例》alterum et:「もう一方のet」
ante ante ~の前に 「~の前に、~以前に」を表す前置詞。時間的にも、空間的にも用いる。
《例》ante adfirmare add. quod Kawashima:「adfirmareの前に、河島はquodを加えている」
ap.
apud
apud ~に adと同じ。
ca. circa だいたい、おおよそ だいたい、おおよそ等の意味を表す。
cens. censuit 判断した 判断したという動詞を略している。
cett. ceteri 他は 一人の校訂者や写本に対して、「他の校訂者、写本は」を表す。
《例》halietos EN alietus cett.:「EとN写本ではhalietosとなっているが、他の写本はalietusとなっている」
cf. confer 比較せよ
参照せよ
他の書籍等への参照を指示する。
ci.
cj.
conicit
coniecit
推測する
推測した
conj.と同じ。
cl. collato 照合することで coll.と同じ。
cod. codex 写本 「ひとつの写本」を表す。複数形はcodd.。
codd. codices 諸写本 「いくつかの写本、諸写本」を表す。
《例》quod codd.:「主要な諸写本ではquodになっている」
coll. collato 照合することで 他の個所を「照合、比較したところ」ということを表す。def.の例を参照のこと。
comm. commentarius コメンタリー 「コメンタリー、注釈書」のことを表す名詞。
conj. conicit
coniecit
推測する
推測した
ある校訂者が「~と推測している、推測した」ことを表す。また、その本の校訂者自身が推測する場合は、conieci「私は推測した」を用いる。
《例》quod coniecit Kawashima:「河島はquodであると推測した」
cont. contulit 比較した 他の個所等と「比較した」。
cp. compare 比較せよ
参照せよ
cf.と同じ。
corr. correxit 訂正した ある個所を「訂正した、校正した」。
damn. damnavit 信頼できない
損傷している
ある校訂者がある箇所が損傷していることを疑い、真正さに疑義を持っている。
deest
desunt
deest
desunt
欠けている
失われている
写本等である部分が「欠けている」時などに使う。
def. defendit 擁護している ある個所の読みを擁護していることを表す。
《例》quod def. Kawashima coll. 1.30:「河島は第1巻30行と用法と比較して、ここで用いられているquodを正しいものとして擁護している」
del. delevit 削除した ある個所を「削除した」。
dett. deteriores (codices) 劣った(写本) 劣った写本、写本伝承上で主要な写本ではない劣った諸写本のこと。
dist. distinxit 文章を分ける
句読点をつける
ある文章を校訂者の判断で二つに分けるときなどに、用いる。
《例》post est dist. A:「estの後で、A写本は文章を区切り句読点をつけている」
dub. dubitanter
dubius
疑わしい ある箇所の写本や校訂が疑わしい。
e
ex
e, ex ~から
~に基づいて
例えばスコリアや他の箇所「から」、またはその個所を「根拠として」、ということを表す。
ed. edidit
editio
edior
校訂した
校訂
校訂者
「校訂した」「校訂」「校訂者」を意味する。
edd. editiones
editores
諸校訂
校訂者たち
上記ed.の複数形の名詞。
ed. pr. editio princeps 最初の校訂版 厳密な意味ではないが、おおよそもっとも古い校訂版のことを指す。例えば、ホメーロスのeditio princepsはDemetrios Chalcondylisの版であると言われる。
edd. vett. editores veteres 古い時代の校訂者
古い時代の校訂本
一般的に、15、16世紀ごろの古い時代の校訂者や校訂本のことを指す。
e.g. exempli gratia 例えば 例示するときに用いる略号。
em.
emend.
emendavit 校訂した 修正したことを表す。
《例》quid] quod codd. (em. Kawashima):「主要写本ではquodになっているが、河島はquidに修正しており、その読みを採用した」
exp. expunxit 削除した ある個所を削除した。
fere fere 一般的に
ほとんど
副詞。「一般的に、ほとんどの場合」を表す。
fort.
fors.
fortasse ひょっとすると
もしかすると
校訂者が「ひょっとすると、もしかすると」~かもしれないと推測であることを特に表す。
《例》quid fortasse recte:「quidがもしかしたら正しいかもしれない」
fr. fragmentum 断片 パピルスなどの「断片」のこと。
gl. glossa 欄外(行間)註
用語解
写本の欄外や本文の行間に書き込まれた古い時代の註。
gr.
γρ.
graphetai
γραφεται
書かれた 写字生や写本の直し手が、他の写本を参照して異読を書き込んでいる場合に使う。
《例》et] at gr. a:「a写本ではetのそばにatという異読を書き記している」
hab. habet 持っている 「~が~を持っている」という動詞。
h.l. hoc loco この場所では 「この場所では~」という意味。
h.v. hunc versum この詩行 「この詩行」を意味する。
《例》post h.v. lac.:「この詩行の後に脱落がある」
i.
inf.
infra 下に 「下にある」を意味する。
ib.
ibid.
ibidem この場所に 「特定の個所、場所に」を表す。
i.e. id est すなわち 「すなわち~である」を意味する略号。
i.m.
in marg.
in margine 欄外に 「欄外に(書かれている)」を表す。
《例》om. A, i.m. N:「(該当箇所が)A写本では削除されていて、N写本では欄外に書かれている」
in in ~のなかに 「~のなかに」を表す前置詞。
ind. indicavit 示す
印をつける
特にある個所の脱落、欠落があることを指示するときに用いる。
《例》post h.v. lac. ind. Adam:「Adamはこの詩行の後に脱落があると印をつけている」
ins. inseruit 挿入した 「~を挿入した」ことを表す。
inscr. inscripsit 書き加えた 「~を書き加えた」ということを表す。校訂者自身が書き加えた場合には、inscripsiと表記する。
interl.
inter lin.
inter lineas 行間に 写本の本文中の行と行の間に書かれていることを表す。
in v. in versu この詩行のなかで 「この詩行のなかで」を意味する。
i.r.
in ras.
in rasura 消し跡に 写字生や写本の直し手が最初書いたものを消してその上に書き足したことを表す。
《例》quid i.r. A:「A写本は消し跡のうえにquidを書いている」
i.t. in textu 本文のなかに 欄外等ではなく、「本分(テキスト)それ自体のなかに」あることを示す。
lac. lacuna 脱落 「欠落、脱落」している部分のことを指示する。
《例》post 509 lac. suspexit Riese:「Rieseは509行の後に脱落があるのではないかと疑っている」
lect.
l.
lectio 読み いくつかある異読のなかで、その写本が書いている「読み」のこと。
lect. diff. lectio difficilior より難しい読み いくつかある異読を比べたときに、書き換えが難しいであろうと思われる読み。異読を比較して原典を再現しようとするときに、難しい、稀なほうの読みは、より普通に知られているありきたりな表現に書き直される傾向が高く、その逆は起こりにくい。そのために、もしも異読から選択をせまられた場合には、難しいほうを選択したほうが、正しいものである可能性が高い、という基準がある。
lit.
in lit.
litura
in litura
消し跡に 写字生や写本の直し手が最初に書いたものを消して、訂正したものを上に書き記したことを表す。i.r.を参照のこと。
litt. littera(e) 文字、複数の文字 欠落箇所や虫食いしたパピルスなどの場合に、そこにどれくらいの文字数が入るかを示す。
《例》desunt ca. 15 litt.:「およそ15文字が欠けている」
loc. locus 場所 場所を指すときなどに用いる。多くは、前置詞とともに、ad loc.(ad loco)「その場所に」などのように用いる。
m. manus 「写し取った人の手、写字生の手」を意味する。
malim malim 私(校訂者)はより好む 異読のなかで、校訂者自身が優位であると考える読みを指示するときに用いる。
marg.
mg.
in margine 欄外に 「欄外に」あること、書かれていることを示す。
m.rec.
m.r.
manus recentior 比較的新しい写字生 manus(写字生の手)のなかでも比較的新しいものであることを示す。
MS(ms) codex manu scriptus
manuscript
写本 「ひとつの写本」を表す。cod.と同じ。
MSS(mss) codices manu scriptus
manuscripts
諸写本 上述の略号の複数系。
mut. mutavit 変えた 「改変した、改訂した」こと。
nonnulli nonnulli editores 数人の校訂者 「数人の校訂者が」ということ。
nota nota 話者を特定する写本中に書かれた印。
num. numerus
numeri
韻律 「韻律」のこと。
olim olim かつて おもに校訂者自身の見解が変わったときなどに使う。「かつて、以前には~と考えていた」というように用いる。
om. omisit 抜かす、書いていない ある写本において、該当の個所が「書かれていない、抜け落ちている」ことを表す。
《例》quod om. V:「V写本にはquodが書かれていない」
op.cit. in opere citato 前掲書中の すでに引用した書物と同じものを指示する。
P.(PP.)
pap.(papp)
Π(ΠΠ)
papyrus(-i) (諸)パピルス パピルスで書かれた写本の読みを示すときに用いる。パピルスの写本は断片のみ残されていることがほとんどであるが、中世の写本に比べると非常に古いので、重要視される。複数のパピルスを表す場合は、語尾のアルファベットを二重にする。
《例》quid] quis pap.3:「第3番パピルスではquodはquisと書かれている」
p.c.
p.corr.
post correctionem 校訂した後で ある写本が修正された記録を持つときに使う。a.c.を参照のこと。
pler. plerique ほとんどの 非常に多く、もしくはほとんどの校訂者や写本。
plur. plures ほとんどの ほとんどの校訂者や写本。
post post ~の後で 「~の後で」を意味する前置詞。
pot.qu. potius quam ~よりも良い 二つの異読を比べたときに、前者よりも後者の方がより良い、よりすぐれていると校訂者が判断している。
p.r. post rasuram 消し跡の後で 写字生や写本の直し手が最初書いたものを消してその上に書き足したことを示す跡があるときに使う。
pr. prius 前者の 二つのもののうちの最初の方。alterumの反対。
praeter praeter ~を除いて 「~を除いて、~以外の」を表す。
《例》codd.(praeter A):「A写本を除くすべての写本」
pro pro ~の代わりに 「~の代わりに」を表す前置詞。
《例》et pro at A:「A写本はatの代わりにetを記載している」
ras rasura 消し跡 写本上に残された修正のための消し跡。i.r.(in rasura)を参照のこと。
rec.
recent.
recentiores より最近の(写本)
後代の(写本)
主要写本よりも近代に近い写本。早い時期の伝承よりも重要ではない場合が多い。
rell. reliqui 残りの(写本) 記述してある写本以外の、他の、残りの写本。
s.
saec.
saeculum 100年 100年、1世紀のこと。
sc.
scil.
scilicet すなわち 「すなわち、言い換えると」を意味する。
sch.
schol.
(複 scholl.)
∑ (∑∑)
Scholium
(複 Scholia)
欄外古註
スコリア
該当箇所に関する古代の欄外註。schol.は単数形で、scholl.は複数形。
scr. scripsit 書きこんだ ある校訂者が書き込んで校訂したことを示す。特にその本の校訂者自身が校訂した場合には下記のscripsiと記す。
scripsi scripsi 私が書き込んだ 校訂者自身が書き込んで、校正した場合に用いる。
《例》at scripsi, de codd.:「すべての主要写本がdeと書いているが、私(校訂者自身)がatと校訂した。
sec. secundum ~に従って 「~に従って、~に応じて」を表す。
secl.
scl.
seclusit 削除記号で囲んだ 該当箇所の原形が損なわれていると考えて、削除する提案をしたことを意味する。
sim. similia 似たもの(単語) 該当箇所の言葉に似た言葉を示唆する。vel sim.を参照せよ。
s.l. supra lineam 行の上に 該当の単語等が行の上に書かれていたことを表す。
sq. sequens ~に続いて ある単語やアルファベットが、該当の個所に続いて置かれることを意味する。
ss. suprascriptum 上に書かれた s.l.と同様の意味。該当の単語等が行の上に書かれていたことを表す。
s.s.
sscr.
supra scr.
supra scripsit 上に書いた ある写本では校訂者が行の上に該当の単語等を書いていることを意味する。
s.u.
s.v.
supra versum 詩行の上に 該当の単語等が詩行の上に書かれていたことを意味する。
s.v. sub voce 該当の言葉に
該当の項目に
『スーダ』やヘーシュキオスのような古代や中世の辞書・辞典からの引用を扱う際に、当該の見出し語を示す。
subscr. subscripsit 下に書いた ある写本では校訂者が行の下に該当の単語等を書いたことを意味する。
superscr. superscripsit 上に書いた s.sと同じ。
suppl. supplevit 補った 写本伝承上では提示されていない読みを提案して、原文を補ったときに使う。新しい読みを提示したことを表す。そのような単語等はしばしば挿入記号(<...>)をつけて本文中に補われている。
susp. suspicatur
suspicatum
疑わしい
真正ではないように思われる
該当の箇所の真正や異読の判断が疑わしいと思われる場合に用いる。
tempt. temptavit 試みた 不確かだけれども、修正を試みた場合に使う。
trai.
traiecit
traiecit 移動した 該当の箇所を、同じテキストのなかの別の場所に移したことを意味する。
transp. transposuit 入れ替えた 文章や単語の順番を入れ替えたことを表す。
ut vid. ut videtur おそらく 「おそらく見たところでは、どうやら」というような意味を表す。
v. vv. versus 詩行 詩行を指す。一行の場合はv.で、複数行の場合はvv.と略す。
《例》v. del. Heinsius:「Heinsiusはこの行を削除している」
v.
vd.
vide 見よ 参照すべき個所等を指示するときに使う。
vel vel もしくは 「もしくは、あるいは」を表す接続詞。
vel sim. vel simile もしくは似た言葉 原文の箇所が崩れていて、ある校訂が提案されている場合に、その校訂が確実とは言えないが、似たような単語が来ることを意味する。
vett. veteres 古い時代の 「古い時代の」写本、校訂者、校訂本等を指し示す。
vid. videtur ~のように見える 多くはut vid.と使う。
v.l.
vv.ll.
varia lectio
variae lectiones
異読 諸写本に書き込まれていた異読。写本間の異なる読み。複数形はvv.ll.と略記される。
vox
voces
vox
voces
単語
いくつかの単語
一般的に「言葉、単語」を意味する。
Ω ω   すべての写本 それぞれの校訂本によって「すべての写本」を表す記号は違うので、確認してください。αβγ...を参照のこと。

※略号等の原形となるラテン語は活用するので注意。例えば、v.はversus「詩行は」の主格と、versum「詩行を」の対格のどちら場合にも使う。また、校訂本によって略号が多少違う。

※略号の複数形は、しばしば最後の文字を二重にすることで表す。例えば、cod.「写本」の複数形はcodd.「諸写本」。

※ところどころギリシア語を使いました。もしかしたら文字化けしてしまうかもしれません。


参考文献

· L.D. レイノルズ, 他、西村賀子, 吉武純夫 (訳)『古典の継承者たち―ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史』、国文社、1996


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