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玉ねぎの語源

    玉ねぎの語源

 今回は「玉ねぎ」(オニオン)の語源です。実はこの言葉、前回扱った「ユニフォームの語源」と関連しています。


玉ねぎの語源

 前回「ユニフォームの語源」を扱いましたが、その中で、「unus」から派生した「uni」という言葉が「一つの、単一の、唯一の」を表すことを確認しました。英語のオニオン(onion)の「オニ」の部分は、実はこの「uni」が変化したもので、同じ意味を持っています。つまり、英語のオニオンは「unus」を起源とし、「根がひと塊りになっている」ことを表しているのです。

 もう少し詳しく見てみましょう。英語の「onion」は、アングロ=フレンチと呼ばれる言語の「union」に、さらに古いフランス語の「oignon」に、さらに古くは「oingnon」に由来しています。現代フランス語の「玉ねぎ」も「oignon」です。共通していることが明白です。そしてその言葉は、ラテン語の「unio」(ウニオー)に由来しています。少し形が違うようにも思われますが、「unio」が活用すると「unionem」になり、似ていることが分かります。この「unio」は、ラテン語で「玉ねぎの類のもの」を表す言葉した。「ウニオー」が「オニオン」の直接的な語源です。まとめますと、unus「1」(ラテン) > unio「玉ねぎ」(ラテン) > oingnon「玉ねぎ」(古仏) > oignon(古仏) > union(アングロ=フレンチ) > onion(現英) という流れがあるわけです。ただし、ラテン語の「unio」(ウニオー)、この発音がちょっと重要です!

 「1」を表す「unus」は「ウーヌス」です。「ウーヌス」の「ウー」の部分が長い音なのに対して、「玉ねぎ」を表す「ウニオー」の「ウ」は、短い音です。ちなみに、ラテン語には同じ綴りで「ウー」を伸ばして発音する「unio」(ウーニオー)という言葉(名詞)があります。この「ウーニオー」は「大きな一粒真珠」を意味する言葉です。この名詞の語源は、動詞の「unio」(ウーニオー)で、「一つに結びつける」という意味です。明らかに「unus」(ウーヌス)つまり「1」を語源としています。「大きな一粒真珠」も「ひと塊りになったもの」という意味にぴったりです。

 さて、「玉ねぎ」を表す「ウニオー」は、「一粒真珠」を表す「ウーニオー」と「同一の単語の異なる意味、ただし発音は違う」と認識されることがあります(cf. OLD "unio")ので、語源的には同じ「1」かもしれません。でも発音の違いは気になるところです・・・。もしかしたら、忘れ去られた別の語源があるのかもしれません。語源を知ることは、ときに困難です。とはいえ、複数の皮がひとつに集まって塊りになっている、そんな玉ねぎの語源として「unus」つまり「1」はふさわしいように思われます。


玉ねぎの語源、別の話

 ついで、というわけでもないのですが、玉ねぎの語源に関して、少し別の話も加えておきます。ラテン語では「玉ねぎ」を表すとき、「unio」(ウニオー)だけではなく、「caepa」(カエパ)もしくは「cepa」(ケーパ)という言葉も使います。一般的には、こちらの方が多く用いらていると思います。さらに、「cepa」(ケーパ)に、指小辞(小さなものを表す語尾)を付けた言葉は「cepulla」(ケープッラ)で、「小さな玉ねぎ、玉ねぎ畑」を意味します。

 この「cepulla」を語源とした現代語がいくつかあります。例えば、イタリア語では「cipolla」、スペイン語では「cebolla」、ポルトガル語では「cebula」、ドイツ語では「Zwiebel」です。これらすべての言葉が、「玉ねぎ」を意味しています。各国の玉ねぎが古代ローマの玉ねぎよりも小さかったかどうかはわかりませんが、ラテン語の「小さな玉ねぎ」が現代の「玉ねぎ」を表す言葉として使われていることは、ちょっと興味深いです。ちなみに、古英語で「玉ねぎ」を意味する「cipe」、古フランス語で「玉ねぎ」を意味する「cive」も、ラテン語の「cepa」を語源としています。

 ドイツ語で「玉ねぎ」を表す「Zwiebel」(ツヴィーベル)は、「cepulla」(ケープッラ)からだいぶ音が離れているように感じますが、やはりラテン語の「cepulla」を語源としています。この「Zwiebel」は、古いドイツ語では「Zwibolla」でした。そこから民間語源が作られています。ドイツ語で「zwei」は「2」を、「Ball」は「ボール」を意味します。それを合わせて「zwei-ball」。似てますね!「玉ねぎ」(Zwiebel)は「二つのボール」という意味だ、という語源が考えられたのです。

 「一つの塊」だったり「二つのボール」だったり・・・、語源はなかなか面白いです。


ラテン語の1,2,3

 さて、玉ねぎの語源を色々見てきましたが、ラテン語が現代の様々な言葉に影響を与えていることが分かります。とりわけ、ラテン語から直接派生した「ロマンス諸語」(フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語など)への影響は大きいです。その例として、ラテン語で1を表す unus(ウーヌス)を初めとする数の呼び名を少し見てみましょう。

 フランス語の1,2,3を表す「アン・ドゥ・トロワ」。音は聞いたことがあるかもしれません。綴りで書くと un, deux, trois となります。ラテン語の unus, duo, tres(ウーヌス、ドゥオ、トレース)と良く似ていることが分かります。イタリア語の1,2,3、uno, due, tre(ウーノ、ドゥーエ、トゥレ)は、音も似ています。スペイン語では uno, dos, tres(ウノ、ドス、トレス)、ポルトガル語では um, dois, trs(ウン、ドイス、トレス)です。当然かもしれませんが、ラテン語とこれらの言語は非常によく似ています。

 それに対して、英語は one, two, three です。ちょっと似ていますが、先ほどのフランス語やイタリア語などと比べるとかなり違います。非常に古い時期、英語の祖先とラテン語の祖先は同じ言語だから、ちょっと似ているのです。このような言語のルーツをたどる試みは「比較言語学」という研究によって為され、その成果から言語相互の様々な関係が解明されました。その話はまた別の機会に。


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