ラテン文学のジャンルは、大きく「韻文」と「散文」に分かれる。
「韻文」とは韻律を伴った詩のことを指します。「韻律」とは、日本の短歌で用いられる「57577」のような、一定のリズム、つまり音の規則のことを指します。ラテン文学の韻律は、特に長短によって表されます。詳しくは「ラテン文学の韻律」を参照してください。
「散文」とは私たちが普段使うような韻律を持たない普通の文章です。韻律に規制されず、一行や字数に制限のないものをさします。とはいえ、ラテン散文はキケローなどの著作家によって洗練されたために、技巧的な表現が用いられます。
「韻文」と「散文」のそれぞれが、さらに細かく区分されています。
「韻文」はおもに韻律の種類によって区分けされます。多くの詩人が同種類の韻律を使って詩作することが多いですが、詩人によっては異なる種類の韻律を用いて詩を作っています。例えば、オウィディウスはおもにエレゲイアという韻律を使って詩を作っていますが、ヘクサメトロスという韻律を用いて叙事詩をも書いています。
また、韻律が同じであっても、内容によって区分する場合があります。ヘクサメトロスという韻律は、ギリシア文学から続く叙事詩の韻律です。その同じ韻律で作られた詩は、「英雄叙事詩」と「教訓詩」、さらに「小叙事詩・牧歌詩」に区分されます。例えばウェルギリウスの3つの作品、『牧歌』は「牧歌詩」、『農耕詩』は「教訓詩」、『アエネーイス』は「叙事詩」にカテゴライズされます。
ただし、「英雄叙事詩」と「教訓詩」はジャンル分けすべきではないという主張する研究者もいて、意見の分かれるところです。
「散文」はおもに内容によって区分されます。小説、弁論、哲学書、歴史書、そして書簡など、内容の性質や、作品の意図によってジャンルが定義されています。書簡については、内容が哲学的なものである場合も含まれます。例えば、セネカの書簡は「倫理書簡集」という題名で翻訳されたりします。また、哲学書の多くは「誰かに宛てて書いたもの」であったり、プラトンのような「対話形式」のものであったりします。そういう意味では哲学的著作のジャンル分けは難しいかもしれません。
以下では韻文、散文、それぞれの下位区分を概観します。解説は順次増やします。
ヘクサメトロスの韻律で語られた長大な作品。エポス(ギ・ラ:epos、英:epic)と総称される。狭義の意味でのエポスは「英雄叙事詩」を意味する。また、教訓的な内容、もしくは学術的な意味合いを意図した作品は「教訓詩」(英:didactic poetry)と呼ばれる。
叙事詩と同じヘクサメトロスの韻律を用いるが、叙事詩とは性質を異にする。牧歌的な情景を歌ったものは「牧歌詩」(ラ:bucolica、英:bucolic、英:pastoral poetry)と呼ばれる。また、叙事詩よりも小規模な物語のことを「小叙事詩(エピュッリオン)」と呼ぶ。エピュッリオン(epyllion)とは、「小さなエポス(epos)」の意味。そのほかに、神々を讃えた「賛歌」(ギ:hymnos、英:hymn)も、ヘクサメトロスの韻律を用いる。
エレゲイアの韻律を用いた作品群。特にローマでは「恋愛エレゲイア詩」(ギ:elegeia、ラ:elegia)が発展した。また、短い詩にエピグラム(ギ・ラ:epigramma、英:epigram)がある。これは、本来は墓碑銘に用いられていた形式から発達した詩の形態を指す。
ギリシア文学から継承し、様々な韻律の形態を持つ。抒情詩は、ギリシア時代に一度廃れたが、ホラーティウスがローマにおいて復興した。リュリカ(lyrica)と呼ばれる。
「風刺詩」という名前で呼ばれるが、社会や政治を風刺する作品ばかりではなかった。ラテン語ではサテゥラ(satura)と呼ばれるものであり、様々な韻律を混ぜたものであった。サトゥラは「寄せ集め」というような意味を持つらしい。風刺的な性格が強くなったのは、ユウェナーリス以降の風刺詩である。このサトゥラはローマに古くからあるものであり、ローマ固有のジャンルとされる。
演劇は「喜劇」と「悲劇」に分かれる。どちらも、ギリシアから受け継がれた性質が強い。
手紙の形式をとった文学作品。実在の相手に宛てて書かれている。
法廷での弁論や、公の場所で行われる政治演説。実際に行なった弁論や演説を、後になって多少手直しして出版した場合が多いようだ。
修辞学に関する書物。基本的には演説や弁論の仕方を説いたもの。巧みな言い回しや表現、さらには身振りや発話法、話の筋の展開の仕方など、様々な観点から修辞に関する技術を考察している書物。
ローマの通史や、個別的な歴史事件の記録、伝記など歴史もまた重要な文学作品として位置づけられている。
散文で書かれた物語。物語は韻文の作品が多いが、現在と同じように散文でも作られていた。