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ウェルギリウス『農耕詩』の冒頭部分

    ウェルギリウス『農耕詩』の冒頭部分(第1歌1-42行)

なにが穀物を豊かに実らせ、いかなる星のもとで、
大地を耕し、葡萄を楡(にれ)の木に結びつけるべきか。
マエケナスよ、牛にはどんな配慮が、家畜を飼うにはどのような世話が、
つつましい蜜蜂を養うには、どれほどの熟練が必要なのか。
私はこれから歌おうと思う。おお、天にあって、
一年のめぐりを導く世界のもっとも輝かしい光よ。
リベルと、恵み深いケレスよ、あなた方の贈り物で、
大地がカオニアの樫の実を豊かな麦の穂に変え、
アケロウス川の水を、葡萄という新しい果実に混ぜ合わせたのなら。
そして農夫を見守る神々ファウヌスたちよ。
さあファウヌスたちと、乙女なる森のニンフらも、ともに足を運びたまえ。
あなたがたの贈り物も私は歌おう。おおネプトゥヌスよ、大地は
大きな三叉の鉾に打たれ、あなたのために、いななく馬を最初に
生み出した。また森に住む方よ、あなたのためにケア島では、
三百の真っ白な雄羊たちが、繁殖した藪の草を食んでいる。
羊の守り神パーンよ、自分のマエナルス山が愛しいなら、
どうか故郷の森とリュカエウス山の牧場を離れ、
好意をもって来てください、おおテゲアの神よ。オリーヴの生みの親
ミネルウァよ。曲がった犂を教えてくれた少年よ。
若い糸杉を、根こそぎにして運ぶシルウァヌスよ。
耕地を熱心に見守ってくれる、すべての神々と女神たちよ――
種播かずとも、新たな実りを育むにせよ、
播いた種のために、天から雨をたっぷりと降らせるにせよ。
とりわけ、カエサルよ。あなたがやがて、神々のどのような集まりに
加えられるのかは定かではない。あなたは町々を尋ねてゆき、
大地の世話をしようと望むだろうか。そして広大な世界によって、
実りを増やし、季節を支配するものとして迎え入れられ、
こめかみのまわりを、母のギンバイカで飾られるのか。
それとも、果てなき海の神となって現れて、水夫たちから
唯一の神威として崇められるのか。最果てのトゥレ島はあなたに仕え、
テテュスはすべての波を捧げて、あなたを自分の婿にと求めるだろう。
あるいは、新たな星座となり、のろのろ進む月々のあとにつけ加わるのか。
場所は乙女座と、それに続く蠍座のはさみの間に
開かれている――すでに燃える蠍座は、あなたのために自らのはさみを
縮めて、定められた間隔より広い空間を天に作っているのだから。
あなたがどのような神になるにせよ――奈落の底(タルタラ)はあなたを王には望んではいない。
あなたもその王になろうなどと、そんな不吉な願望は抱かないだろう。
たとえギリシア人がエリュシウムの野を賞賛し、
プロセルピナが、帰れと命じる母親に従う気にはならないとしても――、
どうか私を順調に進ませ、この大胆な企てにうなずいてください。
そして道を知らぬ農夫たちを、私とともに哀れんで、神としての
歩みを始め、もう今から、祈願で御名が呼ばれることに慣れてください。

小川正廣(訳)、ウェルギリウス『牧歌/農耕詩』、京都大学学術出版会


原典  

Quid faciat laetas segetes, quo sidere terram
uertere, Maecenas, ulmisque adiungere uitis
conueniat, quae cura boum, qui cultus habendo
sit pecori, apibus quanta experientia parcis,
hinc canere incipiam. uos, o clarissima mundi
lumina, labentem caelo quae ducitis annum;
Liber et alma Ceres, uestro si munere tellus
Chaoniam pingui glandem mutauit arista,
poculaque inuentis Acheloia miscuit uuis;
et uos, agrestum praesentia numina, Fauni
(ferte simul Faunique pedem Dryadesque puellae:
munera uestra cano); tuque o, cui prima frementem
fudit equum magno tellus percussa tridenti,
Neptune; et cultor nemorum, cui pinguia Ceae
ter centum niuei tondent dumeta iuuenci;
ipse nemus linquens patrium saltusque Lycaei
Pan, ouium custos, tua si tibi Maenala curae,
adsis, o Tegeaee, fauens, oleaeque Minerua
inuentrix, uncique puer monstrator aratri,
et teneram ab radice ferens, Siluane, cupressum:
dique deaeque omnes, studium quibus arua tueri,
quique nouas alitis non ullo semine fruges
quique satis largum caelo demittitis imbrem.
tuque adeo, quem mox quae sint habitura deorum
concilia incertum est, urbisne inuisere, Caesar,
terrarumque uelis curam, et te maximus orbis
auctorem frugum tempestatumque potentem
accipiat cingens materna tempora myrto;
an deus immensi uenias maris ac tua nautae
numina sola colant, tibi seruiat ultima Thule,
teque sibi generum Tethys emat omnibus undis;
anne nouum tardis sidus te mensibus addas,
qua locus Erigonen inter Chelasque sequentis
panditur (ipse tibi iam bracchia contrahit ardens
Scorpius et caeli iusta plus parte reliquit);
quidquid eris (nam te nec sperant Tartara regem,
nec tibi regnandi ueniat tam dira cupido,
quamuis Elysios miretur Graecia campos
nec repetita sequi curet Proserpina matrem),
da facilem cursum atque audacibus adnue coeptis,
ignarosque uiae mecum miseratus agrestis
ingredere et uotis iam nunc adsuesce uocari.


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